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 こゝにきて日のいるかたを詠やる山よりにしや都なるらし

小夜の山をこゆるとて。

 立歸りいつかこえなんとはかりも賴めをきける佐世の中山

菊川の宿をとをるとて。

 冬かれの山ちのくさもうつろへる霜のした行菊川の水

岡部の里越ゆくに。かたるべき友もなければ。

 置霜のをかへの里に友もなくひとり過行〈かてのイ〉すきの下道〈いはイ〉

うつの山をこゆるとて。

 いかなれはうつの山とはむは玉の夢より云し名にや有けん

大井川をわたるに都のあたりにおなじ名あれば。それさへゆかしくて。

 都にしかよふこゝろの大井川名にたつ浪はかへりもやする

木がらしの森のあたりくすみといふ所に寺あり。そこにとまりて月の影さむきをみて。

 川なみのさえゆくまゝにやまのはの月にさはらぬ木枯の森

しづはた山に淺間大菩薩の宮あれば。それへまうでて。かへるさのみち雪うすくちるをみて。

 から衣しつはた山にをりかくる時雨や雪の下染ならん

遠江にてみしよりも今駿河にて富士をみればなをまさりて。

 朝夕にいくたひ詠こしよりもちかまさりする雪のふしのね

三河國八橋のむかしをとふに。から衣の歌あはれに思ひ出て。

 言葉のたねしとそなるかきつはたかけし衣のゆかり戀しも

鳴海の浦に出て月をみて。

 山のはのかすみの出るほとみえて月になるみの浦靜かなり

星崎のうらをはるかにみわたして。

 春のよの海にいてたる星崎のほのかにみゆる浦のともし火

都へかへる事うれしくて。

 都へとひなのなかちをたちかへる霞のころも錦なりせは

春雪といへる題にて。

 ふるとみてつもりもそせぬ春の雪の庭の木草にあまる露哉

十四日立春なれば。

 山はまた霞ともなきあしたより人の心の春や立らむ

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