コンテンツにスキップ

Page:Gunshoruiju18.djvu/730

提供:Wikisource
このページは校正済みです

からうじて風すこしやみしかば。高野の御山にのぼりつきて。一心院の奧坊といふにいたりて。人々やすみぬるほど。郭公のしきりに聞えしかば。

 高野山佛法僧のこゑをこそ待へき空に鳴ほとゝきす

廿四日。草鞋をつけて諸堂順禮し侍れば。大塔は柱ども立。心柱などきりて。造作のあらましどもなり。金堂はかたのごとくとりたてたるさまなるに。三鈷の松もむかしのは燒て。その種おひとていがきしめぐらしたるをみて。

 今はそのまつ曉やちかからむ千とせふるきも生かはりけり

奧院へまうづるみちすがら。きゝをきしにもおもひやりしにも過たるあはれさ。ありがたさになむ。

 ふりそふや天津空なき雨もたゝ袖の上なるけふの山ちに

御廟の前の堂。〈今度供養の堂なり。〉燈明そのかずなくひかりかゞやきてえもいはず。住僧いであひて大師御所持の鈴杵。水精の御念珠など頂戴せさせられ侍りき。

 あふきつゝみるにいよ高野山光出へきむろのとほそか

內よりたまはりし御爪のきれをおさめたてまつる。裏紙に書付し。

 爪の上の土よりまれの身をうけて佛の道は手にとりつへし

この御ため別に卒都婆たてさせ侍り。そのほかはかなき卒都婆あまたたてさせ侍りき。人々髮をおさむる裏紙に。

 むは玉のその黑髮の一すちにやみちをなかく皆はるけてよ

みづからのとしごろおちたる齒ども。とりをかせたる。二は觀音の像あたらしく造りたてさせ侍るに。腹身にし奉りて。のこり廿あまり侍るをおさむとて。

 いかはかり法を譏りし報とかおち盡しけるはつかしのみや

 よしあしの萬をかけしくちのはの果は我身を捨てさりつる

還向の道空はれて日のひかりあきらかなりしかば。