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Page:Gunshoruiju18.djvu/729

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みゐたる程に。初夜のかねをきゝて。

 朝は又いそきて出むかりまくらねよとねころの鐘聞ゆ也

廿三日。雨氣ありと人々申せしかども。いそぎたちて。粉川の施音寺にまうでておがみ侍りければ。堂のさまなど莊嚴巍々として殊勝きはまりなくなむ。本尊は十一面の千手觀音となむ。額の文字施音の二字は常の文字にて。寺といふ一字なん古文に侍り。誰人の筆にか侍る。すぐれたる見物に侍り。御前に念誦のほどおもひつゞけ侍りき。

 法のためこのみはほねをくたきても粉川の水の心にこすな

 しるへせし紅葉の洞の月もありとたのむ光ややみを照さむ

これは玉葉にこのてらの觀音の御歌とていれることあるをおもひいでてよめる。

紀伊川をわたるとて。

 水上はよしのと聞はきの川のなみの花まてあかぬ色かな

河を過てむかひの河原にこしかきすへて。をのをのあまづつみなどする程。

 こゝよりそ雨つゝみするかり衣きの川上のあさわたりして

ほとゝぎすのこゑをこゝにてはじめてきゝ侍りしに。輿は雨皮してつゝみめぐらして。いづかたもみえざりし。ねむなく。

 いく聲もたゝこゝになけ郭公いつれの山とさしてみましを

此道ことのほかとをくて。十八町の坂は四十八町よりも一里のとをき所どもありて。俗に結解なしとかやいふとて。周桂法師がたはぶれに。

 雨けとはみつゝも出てぬれにけり結解なしなるけふの道哉

かくて山中にいたりて。雨はなはだしく風はげしくて。えゆきやらず谷より吹のぼるかぜ身をくだきて。さらに一あしもすゝみがたきよしを申て。山のうへに輿かきすへてありしかば。

 老の坂くるしきをこそしのきしになと雨風の身をくたく覽