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むこゑしきりにして。又光明寺のなぎさへよせ侍り。そのよも猶風雨やまず。
たのますよ三浦か崎の浪まくらさらてもあたの春のよの夢
翌日淨妙寺に入てみるに。臺あれて春の草にかたぶき。ひはだ朽て苔のみどりにひとし。今は少室一花開。五葉の遺薰もきぬるかとおぼゆるに。宿智のまゆ白き出てかたる。此山に杉の木だかき社は稻荷明神也。白狐あらはるゝ時は寺家に佳瑞あり。門外の叢祠は鎌を手向せり。往古の緣起うせて何の御神ともしらずといへり。さては此御社は大織冠の御鎭座也。やまなる鎭守は彼靈劔の鎌を治められし鎌倉山是なりとおぼえて。
つかとりし神もますなり杉のはのときかまうつむ山の麓に
極樂寺へいたるほど。いとくらき山あひに星月夜といふところあり。むかし此みちに星の御堂とて侍りきなど古僧の申侍しかば。
今も猶ほし月とこそのこるらめ寺なき谷のやみのともしひ
又三浦がさきにこぎかへり。巖の浪の聲を枕として。いくよともしらずきゝあかす。
聞わひぬみうらかさきの岩たかき枕の下のうみのなみ風
雲にまぎれ浪にきゆるかと思へる大嶋をおもひやり侍り。
住人もありとこそきけ大しまの山もうきたる五月雨の
五月の末伊豆の海よりかさなれる山湧々として。ふじの空までもひとつうみのやうにみえ侍。このころより漸夕立のけしきなり。
かさなれる雲わきかヘりいつの海の山よりうかふ夕立の空
同じ比六浦金澤をみるに。亂山かさなりて嶋となり。靑嶂そばだちて海をかくす。祌靈絕妙の勝地なり。金澤にいたりて稱名寺といへる律の寺あり。むかし爲相卿。いかにして此一もとに時雨けむ山に先たつ庭の紅葉葉と侍りしより後は。此木靑はかは玄冬まで侍るよし聞ゆる楓樹くち殘て佛殿の軒に侍り。