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に蘇息し侍れども。明る夜の空さへ殘雨なを暗うして。又立出侍る道に。花笠の里と云幽村あり。愚暗のなぐさめがたきあまりに。
鶯のこゑも聞えぬ秋の雨にしほれそきぬる花かさの里
限なき行ゑの隔に聞えし關の山も是ならんとわけ入て。むかし西塔に侍し快藝法師にあひぬ。拙者〈イナシ〉尊師隆運〈蓮イ〉法師道のしるべにとて文書てたびしを。往事の夢にあらずやなどみるがごとくに打かたらひて。明る日信濃國へうつりき。道すがらに淺間山はいづくぞと尋侍れども。おなじ國ながら山靄はるかにして。野行の人も轉こと葉にまどへり。
淺間山里とひかねし煙たにそこともいはぬ岑のしら雲
酉の刻の斜なるに御堂にまうで侍り。思はざるに引導する人有て內陣に通夜せり。剩本尊の瑠璃壇をめぐりき。まことに多劫の宿緣淺からずおぼえて。歡喜の淚せきあへず。如來本朝御瑞現の徃昔までおもひつゞけて。
てらせ猶濁りにしまぬ難波江のあしまにみえし有明の月
曉に及ぶまでに。月いと淸らかに侍り。姨捨山をおもひやりて。
行やらて心そかよふ更級や姨捨山のあきの夜の月
十五日につとめて宿坊を立かへり。土圭の影うつるばかりに戶隱山へいたりぬ。二重の瑞籬を拜して奧院へのぼるに。疊々たる山の上にすぐれて。中臺に南北ふたつの嶺あり。をのをの重々に岩をかさねあげて八色をまじへたり。千峯萬山のかたちのうちに異木異草ふさが〈かさなイ〉りて。或は佛菩薩の來化の姿もあり。或は天人聖衆の妓樂をとゝのへたる所も有。倂觀音薩埵の勝地にてぞ侍らむ。社頭は北の嶺の半にさしあがりて東に向ひ。大なる岩屋の內へ作り入たり。彼御神は多力雄にてまします。そのこゝろを。