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Page:Gunshoruiju18.djvu/638

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有磯海は。此國の海畔の惣名と聞え・〈侍イ〉けるうへは。わきて尋ぬるに及ばず。折節天氣心よく晴て。四十八ケ瀨も名のみして侍り。一人の爲に其光をくらふせずとは云ながら。身もすゞ〈そゞイ〉ろにうれしくこそ侍れ。

 おさまれる聲さへ波に有磯海の濱の眞砂に道の數そふ

ゆきて越後國の海づら。山陰の道嶮難をしのぎ。淨土といふ所に至ぬ。四種の佛心も衆生の一念に發する所なれば。是ぞすみやかに西方同居土のさかひにて侍るならむかし。

 今そ知いたれはやすきことはりも唯遠からぬさかひなりとは

爰を去てゆけば。すなはち親しらずになりぬ。磐石千尋にそばだちて。のぞむに心性をわすれ。波濤萬里にかさなりて。瀧漲下る事かぎりなし。片々たる孤影より外はたのむ友侍らず。只不退の願力にまかせ侍るなるべし。然ば彼如來の報土を出て。輪廻迷暗のおもひ。子をもとめたまふといへ共。是しらざる有樣もやと覺え侍りて。

 波分て過行ほとはたらちねの親のいさめもわすらるゝ身よ

やがて歌のはまにうつり侍。此日七夕にあひあたりぬ。星の手向も便有て。是ぞ奇異の値遇にて侍るなどおもふに。あまたの舟よそひしてつどひゐたり。

 舟人も心有とや手向する歌のはま梶とりあへすして

また程へて。いとい川といふ河あり。

 世中はいかゝ有けむいとい河いとひし身さへ行ゑしられす

明れば八日になり侍りき。御緣日にまかせて。朱山へこゝろざしぬ。はるとよぢのぼりて。絕頂より瞻望するに。煙水茫々として。山また天涯につらなる。

 雲のはのきゆれは山もかさなれる波の千里に秋かせそ吹

漸よろぼひ下り侍るに。雲の底に蕭寺の鐘の聲うづもれ消て。夕の雨もいと身にしみかへり。打はらひ行袖もしほたるれば。漸麓の旅館