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Page:Gunshoruiju18.djvu/634

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 斯しても世はすまれけり山住の雫をさへにまたてやはくむ

廿八日。船をいだし侍るに。右のかたにあたりてたかし山なりといふをみれば。山としもなき岡のはるかに見わたされて。

 昔よりそのなはかりやたかし山いつくを麓峯としもなし

漸順風になりていよやほなどいふをかけそへて。ふねのはしりければ。

 今こそといるかことくに梓弓やほかけそへて舟も出けり

六月一日。今橋のさとをたちぬるに。二村山のふもとをとをりけるに。くれはとりあやに戀しくとよめりしなどおもひいでられて。

 をそくとくうへをく苗も二村に山のなうつすをたの面かなイ

こよひは遠江國わしづといふ所につきて。本興寺といふ法華堂に一宿し侍り。堂の柱によみてをしつけ侍りし。

 たひ衣わしつの里をきてとへは靈山說法の庭にそ有ける

二日。寺をいでてうぶみのわたりをし侍らむとて。舟まつほど。ひだりかたにいなさほそえをみやりて。

 いつくにかいなさそえ[ほ脫カ]の渡守我身をつくし待としらすや

引馬の宿につきて。あしたに野のあたりをみにまかりて。

 眞萩はら花さく秋にならさせはなをや心を引まのゝ露

八日。さ夜の中山につきて侍る。日坂といふ所を。よに入てたどしくも越侍るとて。

 日の坂はたゝくれぬまのななりけり道ふみ迷ふさ夜の中山

おなじ夜のね覺に。曩祖雅經卿歌に。ふる里をみはてぬ夢のかなしきはふすほともなきさよの中山とつらね。續古今集に入侍しことを思ひいでて。

 かくやありしみ果ぬ夢とよめりしを思ひね覺のさ夜の中山

九日。さ夜の中山にてふじを一見のほどに。雲のみかゝりてさだかに見え侍らねば。はるゝまをまちて一日とまりける間に。十首詠侍る。

 大方にきゝしは物かみてそしる名よりも高きふしの高根は

 遠きたにふりさけあふく富士のねを麓の里にいかゝみる覽