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Page:Gunshoruiju18.djvu/633

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に。山霞。

 春にあけていくその人のことのはのはなその山は霞そむ覽

  旅

 けふいくか宮こをうつす旅の宿は道の外なることわさもなし

  祝

 たてそむる軒はの松は鶴の子のすくふ後まて影さかへとそ

けふ。かゝりの切立をし侍り。又各二首の歌よみ侍しに。

  夏月

 朝かほの花と月とをくらふれは盛みしかき夏のよの月

  祝言

 松のうへにくるてふ糸のいく結ひ玉のを川の末かけてみむ

十九日。八はしを見に。人々さそひまかりてみ侍れば。きゝをよびしよりかたちもなくあれはてゝ。かきつばたなども心うつくしくみえ侍らず。あはれなるこゝちしてよめる。

 かつらきの神は渡さぬ八橋もたえてかすなきくもて也けり

 かきりあれは思ひわたりしやつ橋を七十ちかき齡にそみる

 杜若みなからたえてむらさきの一もとのこる花たにもなし

廿四日。を河より舟にて三河へ行侍しに。風かはりてしまにとゞまり侍るに。ある所にて手づからみるをとり。いせなる人のもとにつかはしける。

 君をいつかみるめかるとて袖ぬれぬいせおの蜑に有ぬ我身も

かへし。後日によみてをこせ侍し。

 君はいかにみるめもからぬ我袖は誰ゆへぬるゝ心とかしる

大濱といふ所へ舟よせてある堂舍にしばらくやすみて。本尊の御前にてよみし。

 おほ濱の波ちわけぬと思ひしにはやかの岸に舟よせてけり

こよひは船中にてあかし侍りて。夜一よ船子ども枕のうへをわうへむし侍れば。おもひつゞけ侍る。

 難波江にあらぬ舟路もあま人のあしの下にそ一よあかせる

廿五日。又佐久嶋といふ所へ舟よせて。八德菴といふ小庵にやどりてみるに。山水のたえだえなるをうけて。まことに山の井の躰もさびしく見え侍れば。