コンテンツにスキップ

Page:Gunshoruiju18.djvu/632

提供:Wikisource
このページは校正済みです

  返し

 五月雨は心ありけり雨宿りたよりしなくはことのはもなし

八日。宿所にまかりて。歌まり張行し侍りしに。十五首の題をさぐりて。初春。

 道をおこし世はまつりことすなほにて國樂める春はきに鳬

  柳風

 これもやはふくとはいはむ春風に朝つゆゆらく玉のを柳

  秋田

 をのつから神や心を作る田のしめをはこえぬさを鹿のこゑ

  逢戀

 猶のこる恨とや思ふきぬをかねてなけきのよはの淚そ

  松

 名にしおへはかめのうへなる山風も松にこたふる萬代の聲

此在所かめ山といふ也。十三日國府。佐渡入道誠泰在所にまかりて。兩道あり。ー續の中に。

  郭公

 みやこをはきかて出しにほとゝきすいせまて誰か待と思はむ

  納凉

 結ひあくる岩井の水のすめら世を思へはひさこくみも盡さす

  恨戀

 いつのまにとはれぬ身とて恨むらむ交す契りも一夜二夜を

十六日。太神宮に代官の人をまいらせけるによみてたてまつりける。

 五十鈴川深くいのらは四の海かへりくまてに浪たつなゆめ

十七日。尾州大野に着侍りしに。伊豆の早雲齋イもとより鴈書有。今度ふじ一見の次に駿州今川宿所にたちよるベきさた有。國もての外にそうげきの事侍。來年に延引すべきよし申をこせ侍しに。はやおもひたち侍れども。かの宿所にはまかで侍るまじきよし返札の序によみてつかはしける。

 今そしるするかの海のはまつゝらくる人厭ふうきななイり鳬

十八日。うたの郡緖川水野右衞門大夫爲則が在所に着侍り。まづ此處にしばらく休足すベきよし懇切に申ければ。心しづかに閑談し侍る。數日の間種々の興遊あり。廿首つらぬる歌