コンテンツにスキップ

Page:Gunshoruiju18.djvu/621

提供:Wikisource
このページは校正済みです

かなるにも。富士のねさこそといそがれて。

 ふしのねに待みむかけそ急かるゝ今宵な高き月をみてしも

けふすぎきつるほし崎など思ひ出らる。

 月影のわか住かたもはるゝよにほしさき遠くおもひ出つゝ

やはぎの宿御とまり。〈おりつまで十二里。〉三條相公羽林のやどにまうでて。飛鳥井黃門など題をさぐりて歌よみ侍しに。名所野月を。

 あはつのゝ露わけ初てあつまちやいく草枕月になれ劒

   名所關月

 忘れしよ苔ふかかりし軒端にも月やみるらんふはの關守

   名所橋月

 戀わたる昔をかけて八橋にはるきてむみつる月かな

   寄月祝言

 いく秋か我君か代も長月やなにふる月の霜をかさねん

つとめて此御とまりを立侍とて。

 のとかなるやはきの里は月の光出入まての名にそ有ける

宇治川のさとゝ申所にて。

 誰か住みやこのたつみしかはあらてこは東路のうち川の里

山中の宿にて御ひるまのほどにぎはゝしさもかぎりなし。

 旅ころもたつきなしとも思はれす民もにきはふ山中のさと

此つゞきに關口と申所あり。

 道ひろく治まれる世の關口はさすとしもなく守としもなし

今八幡と申鳥井の程にて。

 君まもる契しあれは今やはたいまゝてこゝに跡やたれけむ

いまはしの御とまりにて。〈やはぎより八里。〉 あかす明行月をみて。

 夜とゝもに月すみ渡る今橋や明過るまて立そやすらふ

十五日。大いは山とかやのふもとを過侍るに。ふりたる寺みえ侍り。本尊は普門示現の大士にておはしますよし申侍しかば。しばし法施などたてまつりし次。

 君か代は數もしられぬさゝれ石のみる大岩の山となるまて

二むら山越侍るとて。

 けふこゆる二むら山の村もみちまた色うすし歸るさにみむ

衣のさと此あたりにぞ侍らむ。