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Page:Gunshoruiju18.djvu/620

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ちし侍り。舟ばしはるかにつゞきて。行人征馬ひまもなし。あるは木々のもとたちゆへびて。庭のをもむきおぼゆるかたもあり。御舟からめいてかざいこイうかベたり。又かたはらに鵜飼舟などもみえ侍り。一とせ北山殿に行幸のとき。御池に鵜ぶねをおろされ。かつら人をめして。氣色ばかりつかふまつらせられ侍し事さへに。夢のやうに思ひ出され侍る。それよりほかにかけても見及侍らぬわざになむ。

 嶋つとりつかふうきすのまたみねはしらぬ手繩に心ひく也

 おもひ出る昔も遠きわたり哉その面かけのうかふ小舟に

尾張國をよび河にて。

 わか君のめくみや遠くをよひ川ゆたかにすめる水の音かな

おり津の御とまり。〈たるゐより十里。〉かいつなど過て。熱田のみやの神前にまうでて。御道すがらの御祈など申侍き。むかし日本武尊東夷征伐のため。このさかひにをもむきたまひし時。よぎり道し。伊勢太神宮にして大和姬命にまかり申したまひしに。命のさづけたまひし靈劎も此神殿にとゞまらせおはしますとかや。いとやむごとなき神明。鎭護國家のちかひもたのもしくおぼえ侍りて。

 なをまもれめくみあつたの宮柱立ことやすき旅のゆきゝを

 あつまのゝ草葉をなきし秋の霜ふりていく代の君か守りそ

蓬萊の嶋をみて。

 君かため老せぬ藥ありといへはけふや蓬か嶋めくりせん

なるみがたにて。

 忘れしな浦かせさむくなるみかた遠き鹽ひの秋のけしきは

夜寒の里はこの國ぞかしとおもひ出侍て。

 うき身にはいつもよ寒の里なれて今更秋の旅ねともなし

參河國八はしにいたり侍て。はるきぬるとながめ侍し往躅もおもひ出されて。そゞろに過がてにぞおぼえ侍し。

 聞わたるくもてゆかしき八橋をけふはみかはす旅にきに鳬

今夜は十三夜なり。名におふ月のひかりさや