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Page:Gunshoruiju18.djvu/619

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 吹にけりわけ行袖の露霜もみにしむ秋のをのゝ山かせ

すりはり峠をかずもしらずこえ侍る人のたゞ一かたにいそぐも。山みちつゞらおりにて。行ちがふやうにぞ見え侍し。

 心せよ行かふ旅のもろ人もそてすりはりの山のかけちそ

不破の關すぎ侍りしに。もるとしもなきせきのとほそ。苔のみふかくて中々みどころ有。

 戶さしをは幾世忘れて斯く計苔のみとつるふはの關やそ

たる井の宿ちかくなりて。

 むかしみし影をしるへに又やわれ思ふたるゐの水を結はむ

おなじ御とまりにて。〈むさより十四里。〉

 みの山や松は一木のかけにしも旅ねかさなる千代の秋かな

十二日。夜をこめて。あひ川と申所過侍しに。

 末とをき世にあひ河の岩浪のちとせを越る音のさやけさ

靑野が原とかやにしかのねかすかにきこゆ。

 鹿そ鳴く靑野か原のあをつゝらくろもしられぬ夜もしられよイ妻をうらみて

赤坂の宿にて。

 おりに逢あきの梢のあか坂に袖ふりはへていそく旅人

道すがらともなひ侍る人のもみぢしたるつたをいかゞみるとてをくり侍りしに。

 かつみても袖にそあまるまたこえぬうつの山路の露の行ゑは

いづくにて侍しやらむ。霧わたれるひまよりいなばほのかにみえて。秋の空さへえむなるに鴈つれてとぶ。

 秋寒く田のものいなは鴈そ啼霧の朝けの空もほのかに

くゐせ川わたるとて。

 夕されは霧たとし河の名のくゐせもとめて舟や繫かん

かさぬひ笠縫つゝみといふ所にて。

 手にもてる笠缝つゝみ行つれてこととひかはすけふの旅人

ながはしときこゆるは。げにぞはるとみわたされたるにや。

 數ならぬみのゝ長橋なからへて渡るも嬉しかゝるたよりに

むすぶの町屋と申所にて。

 露霜のむすふの町や夜をこめて立あき人も袖や寒けき

すのまた川は興おほかる處のさまなりけり。河のおもていとひろくて。海づらなどのこゝ