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Page:Gunshoruiju18.djvu/613

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參河國八橋にて。

 八橋のくもてに渡るひまもなし君かためにといそくたひ人

矢矧の里近く成て。道のかたはらにまゆみのもみぢしたるを見侍て。

 道のへのまゆみのかた枝紅葉して爱や矢矧の里とみゆらむ

 我君の治れる代はあつさ弓ひかぬやはきのさとにきにけり

今夜の良辰月もことにくもりなく晴て。名をあらはし侍ぬること。千載之一遇。萬秋之芳躅。めでたくおぼえ侍ければ。

 君か代はなをなかつきの月の名も所からにそ光りさしそふ

おなじく此處にて三條相公羽林續歌十三首を講じ侍しに題をさぐり侍て。

  名所山月

 雲もきえ霧もはれ行秋のよになのみ二むらの山のはの月

  名所里月

 秋ふかき夜半のころもの里人は月にめてゝも月や寒けき

  名所浦月

 さそなけに今宵の空の淸みかたみぬ俤も波の上の月

  名所潟月

 過きつる跡になるみの鹽ひかた心をさそふ夜半の月かな

  寄月忍戀

 やとさしな淚の露もよるこそとおきゐて思ふ袖の月かけ

十四日。こゝの御とまりを立侍しに。河あり。これや豐川と申わたりならむとおぼえて。

 かり枕いまいく夜有て十よ川やあさたつ浪の末をいそかむ

衣の里ときゝ侍しも。此あたりやらむと覺えて。

 賤のめかうつや衣の里のなを吹秋かせのつてにしらせよ

山中と申所あり。折ふし鹿のこゑほのかにきこえければ。

 おほつかなこの山中になく鹿のたつきもしらぬ聲の聞ゆる

花ぞの山はいづくにてか侍らむとおぼえて。

 旅衣いさ袖ふれん秋の草の花その山の道をたつねて

引馬野も此國ぞかし。いづくならむと分明ならねど。

 たひ人ののるより外もひく馬のゝ野への秋萩花やみたれむ