なき御ほとを。わか心をやりてさゝけうつくしみ給ふも。ことはりにめてたし。あるときはわりなきわさしかけ奉り給へるを。御ひもひきときて。御木ちやうのうしろにてあふらせ給ふ。あはれこの宮の御しとにぬるゝは。嬉しきわさかな。このぬれたるあふるこそ。おもふやうなるこゝちすれと。よろこはせ給ふ。中つかさの宮わたりの御ことを御心にいれて。そなたの心よせある人とおほして。かたらはせ給ふも。まことに心のうちはおもひゐたることおほかり。行幸ちかくなりぬとて。とのゝうちをいよ〳〵つくりみかゝせ給ふ。世におもしろき菊のねをたつねつゝほりてまいる。いろ〳〵うつろひたるも。黃なるか見ところあるも。さま〳〵にうへたてたるも。あさきりのたえまに見わたしたるは。けにおいもしそきぬへきこゝちするに。なそやまして。おもふことのすこしもなのめなる身ならましかは。すき〳〵しくももてなしわかやきて。常なき世をもすくしてまし。めてたきこと。おもしろきことを。みきくにつけても。たゝおもひかけたりりし心のひくかたのみつよくて。ものうくおもはすに。なけかしきことのまさるそいとくるしき。いかて今は猶ものわすれしなん。思ひかひもなし。つみもふかゝりなと。あけたてはうちなかめて。水鳥ともの。思ふことなけにあそひあへるをみる。
水鳥を水の上とやよそにみん我も浮たる世を過しつゝ
かれもさこそ心をやりてあそふとみゆれと。身はいとくるしかんなりと。思ひよそへらる。小少將の君のふみをこせたる返ことかくに,時雨のさとかきくらせは。つかひもいそく。又空のけしきもうちさはきてなんとて。こしおれたることやかきませたりけん。くらうなり