にたるにたちかへり。いたうかすめたるこせんしに。
雲間なくなかむる空もかさくらしいかに忍ふる時雨なる覽
かきつらむこともおほえす。
ことはりの時雨の空は雲まあれと詠むる袖そ乾くまもなき
その日あたらしくつくられたる舟とも。さしよせさせて御覽す。れう頭けきしゆのいけるかたちおもひやられて。あさやかにうるはし。行幸はたつの時と。またあかつきより人々けさうし心つかひす。上達部の御座は。にしのたいなれは。こなたはれいのやうにさはかしうもあらす。內侍のかんのとのゝ御かたに。中々人々のさうそくなとも。いみしうとゝのへ給ふときこゆ。曉に少將の君まいり給へり。もろともにかしらけつりなとす。れいのさいふとも。日たけなんと。たゆき心ともはたゆたひて。あふきのいとなを〳〵しきを。また人にいひたる。もてこなんとまちゐたるに。つゝみの音を聞つけて。いそきまいるさまあしき。御こしむかへ奉る。ふなかくいとおもしろし。よするを見れは。かよちやうのさる身のほとなから。はしよりのほりて。いとくるしけにうつふしふせる。なにのこと〳〵なるたかきましらひも。身のほとかきりあるに。いとやすけなしかしとみる。御帳のにしおもてに。おましをしつらひて。みなみの庇のひんかしのまに。御いしをたてたる。それより一間へたてゝ。ひんかしにあれたるきはに。北みなみのつまにみすをかけへたてゝ。女房のゐたる南のはしらもとより。すたれをすこし引あけて。內侍二人いつ。その日のかみあけ。うるはしきすかた。からゑをおかしけにかきたるやうなり。左衞門のないし。御はかしとる。靑いろのむもんのからきぬ。すそこのも。ひれ。くんたいはふせむれう