しかど。はるかなるたびの空おぼつかなさに。哀なる事どもをかきつゞけて。
いか計子を思ふつるのとひ別れならはぬ旅の空になくらん
と。文のことばにつゞけて。歌のやうにもあらずかきなし給へるも。人よはなをざりならずおぼゆ。御かへり事は。
それゆへにとひ別ても蘆たつの子を思ふかたは猶そ戀しき
ときこゆ。そのついでに。故
宮こまてかたるも遠し思ひねに忍ふ昔の夢のなこりを
はかなしや旅ねの夢にまよひきてさむれはみえぬ人の俤
などかきてたてまつりしを。又あながちにたよりたづねてかへりごとし給へり。さしも忍び給へりしも折から成けり。
東路の草の枕は遠けれとかたれはちかきいにしへの夢
いつくよりたひねの夢にかよふらん思ひをきつる露を尋て
などの給へり。夏のほどは。あやしきまで音づれもたえておぼつかなさも一かたならず。都のかたはしがのうら浪たち。山三井寺のさはぎなどきこゆるもいとゞおぼつかなし。《帝王編年記云。弘安元年五月十二日巳時日吉神輿三基入洛。是依㆓園城寺金堂供養㆒也。十六日日吉神輿各皈座。》からうじて八月二日ぞつかひまちえて。日ごろよりをきたりける人々のふみどもとりあつめてみつる。
心
とあるうたをみるに。旅の空を思ひをこせてよまれたるにこそはと。心をやりてあはれなれば。その歌のかたはらに。もじちいさく返事をぞかきそへてやる。