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Page:Gunshoruiju18.djvu/527

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水の江夫あり。

 たれかきてみつけの里と聞からにいとゝ旅ねの夫空恐ろしき

廿四日。ひるになりてさやの中山こゆ[イ无]。ことのまゝとかやいふやしろのほどもみぢいとさかにおもしろし。山かげにて。あらしもをよばぬなめり。ふかくいるまゝに。をちこちのみねつゞきこと山ににず心ぼそくあはれなり。ふもとのさとにきく川といふ所にとゞまる。

 越くらす麓の里の夕闇にまつ風をくるさやの中山

あかつき[イ无]おきてみれば。月もいでにけり。

 雪かゝるさやの中山こえぬとは都につけよ有明の月

河をといとすごし。

 わたらむと思ひやかけし東路に有と計はきく川の水

廿五日。きく川をいでて。けふは大井川といふ河をわたる。水いとあせて。きゝしにはたがひてわづらひなし。かはらいくりとかや。いとはるか也。水のいでたらんおもかげをしはからる。

 思ひいつる都のことは大井河幾瀨の石のかすもをよはし

うつの山こゆるほどにしも。あざりのみしりたる山ぶしゆきあひたり。夢にも人をなど。むかしをわざとまねびたらん心地して。いとめづらかにおかしくもあはれにもやさしくもおぼゆ。いそぐ道なりといへば。文もあまたはえかゝず。たゞやむごとなきところひとつにぞをとづれきこゆ[るイ]

 我心うつゝともなしうつの山夢にも遠き昔こふとて

 つたかえてしくれぬひまもうつの山淚に袖の色そこかるゝ

こよひはてごしといふところにとゞまる。なにがしの僧正とかやののぼるとていと人しげし。やどかりかねたりつれど。さすがに人のなきやどもありけり。

廿六日。わらしな川とかやわたりて。おきつの濱にうちいづ。なくいでしあとの月かげ《新古今羇旅 定家卿 こととへよおもひおきつの濱千鳥なく出しあとの月かけ》