など。まづおもひいでらる。ひる立いりたる所にあやしきつげのをまくらあり。いとくるしければうちふしたるに。すゞりもみゆれば。まくらのしやうじに。ふしながらかきつけつ。
なをさりにみるめ計をかり枕結ひをきつと人にかたるな
暮かゝるほど。きよみが關をすぐ。岩こす波のしろききぬをうちきするやうにみゆるいとおかし。
淸見かた年ふる岩にこととはむ波のぬれ衣幾かさねきつ
ほどなくくれて。そのわたりの海ちかきさとにとゞまりぬ。浦人のしわざにや。となりよりくゆりかゝるけぶりいとむづかしきにほひなれば。夜のやどなまぐさしといひける人のことばも思ひいでらる。《白氏文集縛戎人云朝飡飢渴費㆓杯盤㆒夜宿腥臊汚㆓牀席㆒》よもすがらかぜいとあれて。浪たゞ枕の上にたちさはぐ。
ならはすよ余所に聞こし淸見潟あら磯浪のかゝる
ふじの山をみればけぶりもたゝず。むかしちちの朝臣にさそはれて。いかになるみの浦なればなどよみし比。《續古羇旅 安嘉門院右衞門佐 さてもわれいかになるみの浦なれは思かたにはとをさかるらん》とをつあふみの國までは見しかば。ふじのけぶりのすゑもあさ夕たしかにみえし物を。いつのとしよりかたえしととへば。さだかにこたふる人だになし。
誰かたになひきはてゝかふしのねの煙の末のみえすなる覽
古今の序のこと葉までおもひ出られて。
いつの世の麓の塵かふしのねを雪さへ高き山となしけん
朽はてし長柄の橋をつくらはやふしの煙もたゝすなりなは
こよひは浪のうへといふ所にやどりて。あれたるをとさらにめもあはず。
廿七日。あけはなれてのちふじ河わたる。あさ川いとさむし。かぞふれば十五せをぞわたりぬる。
冴わひぬ雪よりおろすふし河の川風こほる冬の衣手
けふは曰いとうらゝかにて。たごの浦にうちいづ。あまどものいさりするをみても。