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ごとしくみゆるを。たればかりにかとめとゞめたりければ。彼ひとしれず恨きこゆる人なりけり。かほしるき隨身などまがふべうもあらねば。かくとはおぼしよらざらめど。そゞろに車の中はづかしく。はしたなきこゝちしながら。今一たびそれとばかりもみ送り聞ゆるは。いとうれしくもあはれにもさま〴〵むねしづかならす。つゐにこなたかなたへ行別れ給ふ程。いといたうかへりみがちに彼處にゆきつきたれば。兼て聞つるよりもあやしくはかなげなる所のさまなれば。いかにしてたへ忍ぶべくもあらず。暮はつる空のけしきもひごろにこえて心ぼそくかなし。宵ゐすべき友もなければ。あやしくしきも定めぬとふのすがごもにたゞひとり打ふしたれど。とけてしもねられず。
はかなしなみしかき夜はの草枕結ふともなきうたゝねの夢
ひごろふれど聞くる人もなし。心ぼそきまゝにきやうづとてに持たる計ぞたのもしきともなりける。
をく露の命まつまのかりの庵にこゝろほそくもやとる月影
いづくにかあらんかすかに笛の音のきこえくる。かの御あたりなりしねにまよひたるこゝちするにも。きとむねふたがるこゝちするを。
待なれし故里をたにとはさりし人はこゝまて思ひやはよる
さても猶うきにたへたる命のかぎり有ければ。やう〳〵心ちもをこたりざまになりたる