Page:Gunshoruiju18.djvu/511

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ちなりけるが。今はとうちやすむほどすべてこゝちもうせて。露ばかり起もあがられず。いたづらものにてふしたりしを。都人さへ思ひのほかにたづねしる便ありて。三日ばかりはとにかくにさはりしかども。ひとひに本意とげにしかば。一すぢにうちもうれしく思ひなりぬ。さてこの所をみるに。うき世ながらかゝるところも有けりとすごく思ふさまなるに。をこなひなれたるあま君たちのよひ曉のあかをこたらず。爰かしこにせぬ れいのをとなどを聞につけても。そゞろにつもりけん年月のつみも。かゝらぬ所にてやみなましかば。いかにせましと思ひ出るにぞ。みもゆるこゝちしける。故里の庭もせにうきをしらせし秋風は。ほけ三まいの峯の松風に吹かよひ。ながむるかどに面かげと見し月影は。りやうじゆせんの雲ゐはるかに心を送るしるべとぞなりにける。

 捨て出しわしのみ山の月ならて誰かよな戀わたりけん

ゆたのたゆたに物をのみ思ひくちにしはては。うつゝ心もあらずあくがれそめにければ。さま世のためしにもなりぬべく。おもひのほかにさすらふる身のゆくゑををのづから思ひしづむる時なきにしもあらねば。かりのよの夢の中なるなげきばかりにもあらず。くらきよりくらきにたどらむながきよのまどひをおもふにも。いとせめて悲しけれど。心は心として猶おもひ馴にしゆふぐれのながめに打そひて。ひと方ならぬ恨もなげきも。せきやるかたなきむねのうちをはかなき水莖のをのづから心のゆく便もやとて。ひとしれず書ながせど。いとゞしき泪のもよほしになむ。いでやをのづから大かたのよの情をすてぬなげの哀ばかりを折々にちりくることの葉も有しにこ