Page:Gunshoruiju18.djvu/510

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山路にまよひぬるぞすべきかたなきや。おしからぬ命もたゞ今ぞ心ぼそく悲しき。いとゞかきくらす泪の雨さへふりそへて。こしかたゆくさきも見えず。思ふにもいふにもたらず。今とぢめはてつる命なれば。身のぬれとをりたること伊勢の白水郞にもこえたり。いたくまはりはてにければ松風のあらしきをたのもし人にて。これも都のかたよりとおぼえて。みのかさなどきてさえづりくる女あり。こわらはのおなじこゑなるともの語する也けり。これやかつらの里のひとならんと見ゆるに。たゞあゆみにあゆみよりて。是は何人ぞあな心う。御前は人のてをにげいで給か。またくちろむなどをし給たりけるにか何故かゝるおほ雨に降れてこの山中へ出給ぬるぞ。いづくよりいづくをさしておはするぞ。あやしあやしとさえづる。なにといふこゝろにか。したをたびならして。あないとおしとくり返しいふぞうれしかりける。しきりに身のありさまを尋れば。これは人を恨るにもあらず。またくちろむとかやをもせず。たゞ思ふこと有てこの山のおくにたづぬべきこと有て夜ふかく出つれど。雨もおびたゞしく。山路さへまどひてこしかたもおぼえず。ゆくさきもえしらず。しぬべき心地さへすれば。爰によりゐたるなり。おなじくはそのあたり迄みちびき給ひてんやといへば。いよいとおしがりて。手をひかへてみちびく情のふかさぞ佛の御しるべにやとまで。うれしくありがたかりける。ほどなく送りつけてかへりぬ。まちとる處にもあやしくものぐるをしきものゝさまかなとみおどろく人おほかるらめなれども。かつらの里のひとの情におとらめやは。さまにたすけあつかはるゝほど山路はなを人のこゝ