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Page:Gunshoruiju18.djvu/508

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れば。よしや思へばやすきと。ことはりに思ひ立ぬる心のつきぬるぞ。有し夢のしるしにやとうれしかりける。今はと物を思ひなりにしもといへば。えに悲しきことおほかりける。春ののどやかなるに何となくつもりにける手ならひのほんごなどやりかへすつゐでに。かの御文どもをとりいでてみれば。梅がえの色づきそめし初より冬草かれはつる迄おりの哀忍びがたきふしを打とけて聞えかはしけることの積ける程も。今はとみるはあはれ淺からぬなかに。いつぞやつねよりもめとゞまりぬらんかしとおぼゆる程に。こなたのあるじ今宵はいとさびしく。物おそろしき心ちするに。爰にふしたまへとて。我かたへもかへらず成ぬ。あなむづかしとおぼゆれど。せめて心の鬼もおそろしければ。かへりなんともいはでふしぬ。人はみな何心なくねいりぬる程に。やをらすべり出れば。ともし火の殘て心ぼそきひかりなるに。人や驚かんとゆゝしくおそろしけれど。たゞしやうじひとへを隔たる居どころなれば。ひるよりよういしつるはさみばこのふたなどのほどなく手にさはるもいとうれしくて。かみを引分るほどぞさすがおそろしかりける。そぎおとしぬれば。このふたにうち入て。かき置つる文などもとりぐしてをかむとする程。いでつるしやうじ口より火の光のなをほのかにみゆるに。文かきつくる硯のふたもせで有けるがかたはらにみゆるを引よせて。そぎおとしたるかみをおしつゝみたるみちの國紙のかたはらに。たゞうち思ふことを書つれど。外なるともしびの光なれば。筆のたちどもみえず。

 なけきつゝわひイ身を早きせの底とたにしらす迷はん跡そ悲しき

身をもなげてんと思ひけるにや。たゞ今も出