Page:Gunshoruiju18.djvu/507

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りはてむとすらんと。心ぼそく思ひつゞくるにも。ありしながらの心ならましかば。うきたる身のとがもかうまでは思ひしらすぞ過なましなど思ひつゞくるに。今さら身のうさもやる方なく悲しければ。今宵は難面てやみなましなど思ひ亂るゝに。例のまつほど過ぬるはいかなるにかと。さすがめもあはす。みじろぎふしたるに。かのちいさき童にや。しのびやかにうちたゝくを聞つけたるには。かしこく思ひしづむる心もいかなりぬるにか。やをらすべり出ゐるも。我ながらうとましきに。月もいみじくあかければ。いとはしたなき心地して。すいがいの折殘りたるひまにたちかくるゝも。彼ひたちのみやの御すまゐ思ひ出らるゝに。いるかたしたふ人の御さまぞことたがひておはしけれど。立よる人の御面かげはしも。里わかぬ光にもならびぬべきこゝちするは。あながちに思ひ出られて。さすがに覺し出るおりもやと。心をやりて思ひつゞくるに。はづかしきことも多かり。しはすにもなりぬ。雪かきくらして風もいとすさまじき日。いととくおろしまはして。人二三人ばかりして物語などするに。夜もいたく更ぬとてひとはみな寢ぬれど。露まどろまれぬに。やをら起出てみるに。宵には雲がくれたりつる月の浮雲まがはず也ながら。山のは近きひかりほのかにみゆるは七日の月なりけり。みし夜のかぎりも今宵ぞかしと思ひいづるにたゞそのおりのこゝちして。さだかにもおぼえずなりぬる御面かげさへさしむかひたる心ちするに。まづかきくらす淚に月の影もみえずとて。佛などの見え給つるにやと思ふに。はづかしくもたのもしくも成ぬ。さるは月日にそへてたへ忍ぶべき心ちもせず。こゝろづくしなることのみ增