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Page:Gunshoruiju18.djvu/506

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ことなき心のうちならんかし。歸りてもいとくるしければ。うちやすみたる程御ふみとてとりいれたるも。むねうちさはぎてひきひろげたれば。たゞ今の空の哀にひごろのをこたりをとりそへて。こまやかに書なされたる墨つき筆のながれもいとみそ有と。例の中々かきみだす心まよひに。ことの葉のつゞきもみえずなりぬれば。御かへりもいかゞ聞えけん。名殘もいと心ぼそくて。この御文をつくと見るにも。日比のつらさはみな忘られぬるも。人わろき心の程やどまたうちをかれて。

 これやさはとふもつらさのかすに淚をそふる水莖の跡

例の人しれずなかみちちかきそらにだに。たどしきゆふやみに契たがへぬしるべばかりにて盡せず。夢のこゝちするにも。いてきこえんかたなければ。たゞいひしらぬ泪のみむせかへりたる。あか月にもなりぬ。枕に近き鐘の音も唯今の命をかぎる心ちして。我にもあらずおきわかれにし袖の露いとゞかこちがましくて。君やこしとも思ひわかれぬなかみちに。例のたのもし人にてすべりいでゐるも。返す夢のこゝちなむしける。彼處にはむめきたの方わづらひ給けるが。つゐにきえはて給にければ。そのほどのまぎれにや。またほどふるもことはりながら。いひしにたがふつらさはしも。ありしにまさる心地するは。いかにおぼしまどふらんと。とりわきたりける御思ひの名殘もいと苦しくをしはかり聞ゆれど。あはれしる心の程中々聞えん方なぐて。日數ふるいぶせさをかれぞ驚かし給つる。難面よの哀さもみづから聞えあはせたくなどあれば。例のうちゐる程の鐘の響に人ふれずたのみをかくるも。おもへば淺ましく。よの常ならずあだなる身のゆくゑ。つゐにいかにな