Page:Gunshoruiju18.djvu/505

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なりし心まよひには。ふし柴のとたに思ひしらざりける。やう色づきぬ。秋の風のうきみにしらるゝ心ぞうたてくかなしき物なりけるを。をのづからたのむる宵はあしにもあらず。打過る鐘のひゞきをつくと聞ふしたるも。いけるこゝちだにせねば。げに今さらに鳥はものかはとぞ思ひしられける。さすがにたえぬ夢のこゝちは。ありしにかはるけぢめも見えぬものから。とにかくにさはりがちなるあしわけ船にて神無月にもなりぬ。降みふらずみ定なき頃の空のけしきは。いとゞ袖のいとまなき心ちして。おきふしながめわぶれど。絕てほどふるおぼつかなさの。ならはぬ日數の隔るも。今はかくにこそと思ひなりぬるよの心ぼそさぞ。なにゝたとへてもあかずかなしかりける。いとせめてあくがるゝ心催すにや。にはかにうづまさに詣でんと思ひ立ぬるも。かつうはいとあやしく。佛のみ心の中はづかしけれど。二葉より參り馴にしかば。すぐれてたのもしき心ちして。心づからのなやましさも愁ひきこえむとにやあらむ。しばしば御前にともなる人々。時雨しぬべしはやかへり給へなどいへば。心にもあらずいそぎ出るに。ほうこんごう院の紅葉このごろぞさかりと見えて。いとおもしろければ。すぎがてにおりぬ。かうらんのつまの岩のうへにおりゐて。山の方をみやれば。木々の紅葉色々に見えて。松にかゝれるつたの心の色もほかにもことなる心地していとみ所おほかるに。うきふるさとはいとゞわすられぬるにや。とみにもたゝれず。おしも風さへ吹て。物さはがしくなりければ。みさすやうにてたつ程。

 人しれす契りし中のことの葉を嵐ふけとはおもはさりしを

とおもひつゞくるにも。すべて思ひざまさる