ですみわたりて。實に身にしむばかりなり。餘熱いまだつきざる程なれば。往還の旅人多く立よりてすゞみあへり。斑婕妤が團雪の扇。秋風にかくて暫忘れぬれば。すゑ遠き道なれども。立さらん事はものうくて更にいそがれず。かの西行が
道のへの木陰の淸水むすふとてしはしすゝまぬ旅人そなき
かしは原と云所をたちて美濃國關山にもかゝりぬ。谷川霧の底に音信。山風松の梢に時雨わたりて。日影もみえぬ木の下道あはれに心ぼそし。こえはてぬれば不破の關屋なり。《新古今雜中 人すまぬふはのせきやの板ひさしあれにしのちはたゝあきの風》萱屋の板庇年經にけりとみゆるにも。後京極
しらさりき秋の半の今宵しもかゝる旅ねの月をみんとは
かやつの東宿の前を過れば。そこらの人あつまりて。里もひゞくばかりにのゝしりあへり。けふは市の日になむあたりたるとぞいふなる。往還のたぐひ手每にむなしからぬ家づとも。《古今春上 そせい みてのみや人にかたらん櫻はなてことにおりていへつとにせん》かのみてのみや人にかたらんとよめる花