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Page:Gunshoruiju18.djvu/470

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 思ひやる都は西にありあけの月かれふけはいとゝこひしき

十八日。此宿の南の軒ばに高き丸山あり。山の下に細き小川あり。峯のあらしこゑ落て夕の袖をひるがへし。灣水ひゞきそゝぎて夜の夢をあらふ。年比ゆかしかりつる所か。いつしか周覽相もよほし侍れども。いまだ旅なれば今日はむなしく暮しつ。相知たる人は一兩人侍るを賴て。物など申さんとおもふ程に。たがひてなければ。いとゞたよりなくて。

 賴めつる人はなきさのかたつ貝逢ぬにつけて身を恨みつゝ

さらぬ人はおほけれども。うとければ物いはず。其中にふるき得意ひとりありて。不慮の面談をとぐ。往事の夢に似たる事をあはれみて。次にむかしにかはる事をなげく。たがひに心懷を述て暫相語る。其後立出てみれば。此ところの景趣は。うみあり山有水木たよりあり。廣きにもあらず狹にもあらず。街衢のちまたはかたに通ぜり。實に此聚おなじ邑をなす。鄕里都を論じて望まづめづらしく。豪をえらび賢をえらぶ。門㨯しきみをならべて地又賑り。をろ將軍の貴居を垣間見れば。花堂たかくおしひらいて翠簾の色喜氣をふくみ。朱欄妙にかまへて玉砌のいしずへ光をみがく。春にあへる鶯のこゑは好客堂上の花にあざけり。あしたををくる龍蹄は參會門前の市に嘶ゆ。論ぜず。本より春日山より出たれば。貴光たかく照て萬人みな瞻仰。士風麈をはらふ威驗遠く誡て四方ことく聞きにおそる。何ぞ况や。舊水源すみまさりて。淸流いよ遺跡をうるほし。新花榮鮮にひらけて。紫藤はるかに萬歲をちぎる。凡座制を帷帳の中に廻て。徵集郡國の間につゞめたり。しかのみならず。家室は扃をわすれて夜の戶をおしひらき。人倫は心を調てほこるともほこらず。愚政の至