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Page:Gunshoruiju18.djvu/466

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日岳□の東にのぼりて雲はやく驛路の天にはれぬ。彼山祇のむかしのうたに。遊女が口につたへ。嶺猿の夕のなきは。行人の心をいたましむ。〈昔靑墓の宿の君女此山をこえける時。山神翁に化してうたををしへたりけり。あしがらといふはこれなり。〉時に萬仭みねたかし。樹根にまとふてこしをかゞめ。千里巖さかし。苔の鬚をかなぐりて脛をのゝく。山中を胡馬がへしといふ。馬もしここにとゞまらましかば。此山をば鞍馬とぞいはまし。これより相摸國にうつりぬ。

 秋ならはいかに木葉のみたれまし嵐そおつるあしからの山

關下の宿をすぐれば。宅をならぶる住民は人を宿して主とし。窓にうたふ君女は客をとゞめて夫とす。あはれむべしちとせのちぎりを旅宿の一夜のゆめにむすび。生涯のたのみを往還の諸人の望にかく。翠帳紅閨萬事の禮法ことなりといへども。草庵柴戶一生の觀念これおなじ。

 さくらとて花めく山の谷ほこりをのか匂ひもはるは一とき

道は順道なれども。宿を逆川と云所にとまる。〈鹽のさすとき。水の上ざまにながるれば。さかはといふ。〉北は片岡田疁うちすきみて薄の燒おれ靑葉にまじり。南は滿海蒼波わきあがりて。白馬ならびわたる。しかのみならず。前汀東西素布を長疊の浪にあらそひ。後園町段綠衫を萬きやうの竹にかり。時に暮行日脚は景を遠嶋の松にかへし。來宿踈人は契を同驛のむしろにむすぶ。彼草につなぐ疲馬は胡國を忍びて北風に嘶へ。野にやすむ群牛は吳地にならひて夜の月に喘。掉歌數聲舟船を明月峽のほとりによせ。松琴萬曲琵琶を尋陽江の汀にきく。一生のおもひ出今夜の泊りにあり。

 行とまる磯邊のなみのよるの月旅ねの袖にまたやとせとや

十七日。逆川を立て平山を過て。高倉宰相中將範茂。笘峯山のうみじり急河と云淵にて底の