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Page:Gunshoruiju18.djvu/465

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妄念はさもあらばあれ。南無西方彌陀觀音。そのときの發心なをざりならずは來迎たのみあり。これやこの人々の別れし野邊とうちながめてすぐれば。淺茅が原に風たちて。なびく草葉に露こぼれ。無常の鄕とはいひながら。無慚なりける別れかな。有爲のさかひとおもへども。うかりける世中かな。官位は春の夢。くさのまくらにながく絕ぬ。樂榮はあしたの露。苔のむしろにきえはてぬ。死出山路には隨はぬならひなれば。後世のうらみもいかゞせん。東のみちにひとり出て。あやうき武士にいざなはれ行けんこゝろのうちこそあはれなれ。かの冥吏呵責の塲には。ひとり自業自得の斷罪に舌をまき。此妻息別離の跡には。各不意不慮の橫死に淚をやる。生てのわかれ死てのうらみ。ふたつながらをいかゞせん。眞をうつしてもよしなし。一生いくばくならぬ。魂を訪て足ぬべし。二世のちぎりむなしからじ。

 おもへはなうかりし世にもあひ澤の水の泡とや人のきゆ覽

けふ足柄山をこえて關の下の宿にとまるべき日。暮烏むらがりとんで。林頭に鷺ねぐらをあらそへば。山の此方竹の下といふところにとまる。四方は高山にて一川谷にながれ。嵐落て枕をあらふ。聞ばこれ松の音。霜さえて袖にあり。はらへばたゞ月のひかり。ね覺のおもひにたえず。ひとりおきゐてのこりの夜をあかす。

 見し人にあふ夜の夢の名殘かなかけろふ月に松風の聲

 更る夜のあらしの枕ふしわひぬ夢もみやこに遠さかりきて

十六日。竹の下を立て。林中をすぎてはると行ば。千束のはしを獨粱にさしこえて。足柄山に手をたてゝのぼれば。君子松いつくしくて。貴人の風過る笠をとがめ。客雲梢にかさなりて故山のいたゞきあらたに高し。朝の間雨ふりて松のかぜ聲の虛名をあらはす。程なく