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ば。なをはるかに過行けん。まことに旅の空はいかゞものあはれなるべき。况や馬嵬のみちに出て。牛頭のさかひにかへらんずる淚の底にも。都におもひをく人々や心にかゝりて。ありやなしやのことの葉だにも。今一度きかまほしかりけん。されどもすみだ川にもあらねば。こととふ鳥のたよりだにもなくて。此原にてながく日の光にわかれ。冥道にたちかくれにけり。
都をはいかに花人はるたえてあつまの秋の木の葉とはちる
やがて按察使左兵衞督有雅卿。おなじく此原にてすゑの露もとのしづくとをくれさきだちにけり。夫人つねの生なし。家つねの居なし。これは世のならひ事の理なり。されども期來て生て謝せば。理をのべて忍つべし。緣つきて家をわかれば。ならひを存してなぐさみぬべし。わかれし所はうき世なり。