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Page:Gunshoruiju18.djvu/464

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ば。なをはるかに過行けん。まことに旅の空はいかゞものあはれなるべき。况や馬嵬のみちに出て。牛頭のさかひにかへらんずる淚の底にも。都におもひをく人々や心にかゝりて。ありやなしやのことの葉だにも。今一度きかまほしかりけん。されどもすみだ川にもあらねば。こととふ鳥のたよりだにもなくて。此原にてながく日の光にわかれ。冥道にたちかくれにけり。

 都をはいかに花人はるたえてあつまの秋の木の葉とはちる

やがて按察使左兵衞督有雅卿。おなじく此原にてすゑの露もとのしづくとをくれさきだちにけり。夫人つねの生なし。家つねの居なし。これは世のならひ事の理なり。されども期來て生て謝せば。理をのべて忍つべし。緣つきて家をわかれば。ならひを存してなぐさみぬべし。わかれし所はうき世なり。ミヤコの外の荒々たる野原のたびのみち。沒せん時はいまだしき時なり。うらみをふくみし悄々たる秋の天の夕の空。誠に時の災孽の遇にあへりといへども。こゝにこれ先世の宿業のむくゆる酬なり。抑かの人々は官班身を名譽のきゝをあぐ。君恩あくまでうるほして降雨のごとし。人望かたにひらけてさかりなる花に似たりき。中に黃門都護は家の貫首として一門の間に捷をおしひらき。朝の重臣として萬機の庭に線をとゝのへき。誰かおもひし天俄に炎をくだして天命をほろぼし。地たちまちに夭をあげて地望をうしなはんとは。あはれなるかな入木のとりの跡は千とせの記念にのこり。歸泉の靈魂は九夜のゆめにまよひにき。されども善惡こゝろにつよくして生死はたゞ恨なりとおもへりき。つゐに十念相續して他界にうつりぬ。夏の終秋のはじめ人醉世にごりし。其間の