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られたり。
けふすくる身を浮嶋か原にきてつゐの道をそきゝ定めつる
これを見る人心あればみな袖をうるほす。夫北州の千年はかぎりを知て壽をなげく。南州の不定は期をしらずして命をたのむ。誠にけふばかりとおもへどもこゝろのうちを推すべし。おほかたはむかしがたりにだも。あはれなるにはなみだをのごふ。何ぞいはんや。我も人も見し世のゆめなれば。おどろかすにつきてあはれにこそ覺ゆれ。さてもみねの梢をはらひしあらしのひゞきに。およばぬ谷の下くさまでもふきしほられて。かずならぬ露の身もをき所なくなりにしより。かくいひて命を惜みて。うせにし人のこと葉を存す。厭身は今までありてよそにみるこそあはれなれ。此歌の心をたづぬれば。納言浮嶋が原を過とて。ものをかたにかけのぼるもの逢たりけり。とへば按察使光親卿の僮僕主君の遺骨を拾て都にかへるとなく〳〵いひけり。それをみるに。身のうへの事なれば。魂はいきてよりさこそはきえにけめ。本より遁まじきとは知ながら。をのづから虎口より出て龜毛の命もやうると。なをまたれけんこゝろに。今は終にときゝさだめて。げにうきしまが原より。我にもあらず馬の行にまかせて此宿に落つきぬ。こよひばかりの命。まくらの下のきり〴〵すとともにちぎりあかして。かく書留て出られけんこそあはれをのこすのみにあらず。無跡まで情もふかく見ゆれ。
さそなけに命もおしのつるき羽にかゝるあはれは浮嶋か原
十五日。木瀨川を立て遇澤と云野原をすぐ。此野何のさとともしらず。遙々とゆけば。納言はこゝにてはやく暇候べしと聞えけるに。心中に所作ありとしばらくとこひうけられけれ