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Page:Gunshoruiju18.djvu/459

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ふたつながら得るは此うらにあり。浪にあらひてぬれや□に道をとへば松風むなしくこたふ。岸柳にくるしみを尋れば橦花變じて石あり。

關屋の邊に。布をたゝみといふ所あり。むかしせきもりの布を取たるが。つもりて石になりたるといへり。

 吹よせよ淸見うら風わすれ貝ひろふ名殘のなにしおはゝや

 變らはやけふみるはかり淸見潟おほはし袖にかゝる浪ちは

海老はなみにおよぎ。愚老は汀にたゞよふ。ともに老て腰かゞまる。汝はしるや生涯うかべるいのち今いくほどと。我はしらず幻中の一瞬の身。かくておきつのうらをすぐれば。しほがまのけぶりかすかに。うら人の袖うちしほれ。邊宅には小魚をさらして屋上に鱗をふけり。松のむら立なみのゆるいろ。心なき心にもこゝろあらん人に見せまくほしくて。

 たゝぬらせゆくての袖にかゝる波ひるまのほとは浦風も吹

岫崎といふ所は風飄々と飜て砂をまはし。波浪々とみだれて人をしきる。行客こゝにたづさはりて。しばらくよせひくなみまをうかゞひていそぎとをる。左は嶮岳の下と岩のはざまをしのぎ行。右はかすかなる浪のうへをのぞめば眼うげぬべし。はるとゆくほどに。大わだのうらに來て。小船の沖中にたゞよへるをみる。飄帆飛で萬里風便をたのみて白煙にいり。鼇波うごきて千雲夕陽をあらひて紅藍にそむ。海舘のうちに此所をのみとめて身をばとゞめず。

 わすれしな波の面影立そひてすくるなこりのおほわたの浦

湯居の宿を立てはるかに行ば。千本の松原といふところあり。老のまなこは極浦のなみにしほれ。朧なる耳は長松のかぜにはらふ。晴の天の雨には翠蓋のかさあれば袖をたくらず。