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Page:Gunshoruiju18.djvu/458

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す。其大夫が子孫舞人氏とす。二月十二日常樂會とて寺中の大營なり。そののち天人歸り。廻雪は春の花の色みねにとゞまり。恕風は歲月のこゑはよつて此濱をすぐれば。松に雅琴有てなみにつゞみ有。天人の樂今聞に似たり。

 袖ふりし天津をとめか羽衣のおも影にたつあとの白波

江尻の浦をすぐれば。靑苔石におひ黑布磯にはる。南は澳の海淼々と波をわかして孤帆天にとび。北は茂松欝々と枝たれて一道つるをなす。漁夫の網をひく。身をたすけんとして身をくるしみ。游魚の鈎をのむ。命をおしみて命をほろぼす。人いくばくの利をか得たる。魚いくばくの餌をかもとむる。世をわしるおもひ。命をたばふこゝろざし。かれもこれもともにおなじ。これのみかは。山にあせかく樵夫は北風をになひて夕にかへり。野にあしなへく商客は。白露をはらふてあかつきに出。面々のたのしみまちなりといへども。各々のくるしみは。みなこれ渡世の一事なり。

 人ことにはしる心はかはれとも世をすくる道は一つ成けり

此うらをはるかに見渡して行ば。海松はなみの岩ねに根をはなれたる草。海月は潮のうへに水にうつるかげ。ともにこれうき世を論じて人をいましめたり。

 浪のうへにたゝよふ海の月もまたうかれ行とそ我を見る覽

淸見がせきを見れば。西南は天と海と高低ひとつにまなこをまどはし。東北は山と磯と嶮難おなじく足をつまだつ。磐の下には波の花風にひらきて春のさだめなく。峯のうへには松の色みどりを含て秋をおそれず。浮天の波は雲を汀にて月のみふね夜出てこぎ。沈陸の磯は磐を道にて風の使脚あしたにふきてすぐ。名を得たる所かならずしも興をえず。耳に耽る所かならずしも目にふけらず。耳目の感