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Page:Gunshoruiju18.djvu/456

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枝の市をとをれば花はさきかゝりたり。

 前嶋の市には波の跡もなしみな藤枝のはなにかへつゝ

岡部の里邑を過てはるかにゆけば。宇都の山にかゝる。此山は山中に山を愛するたくみのけずりなせる山也。碧岸の下に砂ながうして巖をたて。翠嶺の上に葉おちて壤をつく。肬を背におひ面を胸にいだきて漸にのぼれば。汗肩袒のはだへにながれて。單衣かさぬといへども。懷中の扇を手にうごかして。微風の扶持可也。かくて森々たる林をわけて峨々たる峯を越れば。貴石の譽は此山にたかし。大かたおちこちの木立にこゝろをわけられて。一方ならぬ感望におもひみだれて過れば。朝雲峯くらし。虎李將軍が栖をさり。暮風谷寒し。鶴鄭太尉が跡にすむ。旣にして赤羽西にとび。まなこにさへぎるものとては檜原槇の葉。老のちからこゝを疲れたり。あしにまかするものは苔の岩ね蔦の下道嶮難にたへず。暫うちやすめば。修行者一兩客繩床そばにたてゝ又休む。

 立かへるうつの山ふしことつてよ都こひつゝひとりこえきと

行々おもへばすぎきぬる此あひだの山河は。夢に見つるかうつゝにみつるか。昨日とやいはんけふとやいはん。むかしを今とおもへば我身老たり。今をむかしとおもへば我心わかし。古今をへだつる物はわが心の中懷なり。生死涅般猶如昨夢といへるもあはれにこそおぼゆれ。昨日過にしあとはけふの夢となり。今日此所をすぐる。明日いづれの所にして今はきのふといはん。誠にこれ過ぬるかたの歲月を夢よりゆめにうつりぬ。昨日今日の山路は雲よりくもにいる。

 あすや又きのふの雲に驚かんけふはうつゝのうつの山こえ

手越の宿にとまりてあしをやすむ。十三日手越を立て野邊をはると過。こずゑをみれ