Page:Gunshoruiju18.djvu/455

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つてにごりをたて。茨山汾水の源流たかくながれ。はるかに西海のにしにくだり。卿相羽林の花族とをく落て東關の東にちりぬ。これのみにあらず別離宮の月のひかり所々にうつりぬ。雲井をへだてゝ旅のそらにすみ。鷄籠山の竹の聲方々にうれへたり。風のたよりをたえて外土にさまよふ。ゆめかうつゝか。むかしもいまだきかず。錦帳玉端の床は主失て武客の宿となり麗水蜀川の貢數をつくして邊民のたからとなりにき。よるひるたはぶれて衿をかさねし鴛鴦。千歲比翼ちぎりいきながらたえ。朝夕にうやまひて袖をおさめし僮僕も。たねん知恩のこゝろざしおもひながらわかれぬ。實に會者定離のならひ目のまへに見ゆるに。刹利も首陀もかはらぬ奈落のそこのありさま。あはれにこそおぼゆれ。今はなげくともたすくべき人もなければ淚をさきだてて心よはくうちいでぬ。其身にしたがふものは甲冑の兵こゝろを一騎の客にかく。其目にたつものは釼戟のつるぎ。魂を寸神のむねにけす。せめて命のをしさにかく書付られけんこそ。するすみならぬ袖の色もあらはれぬべく覺ゆれ。

 心あらはさそなあはれと水くきの跡かきわくる宿の旅人

妙井渡と云所の野原をすぐ。中呂の節にあたりて。小暑の氣やうもよほせども。いまだ納凉のころならねば手にむすばず。

 夏深き淸水なりせは駒とめて暫しすゝまは日はくれぬへし

播豆藏の宿をすぎて大堰河をわたる。此川は川中に渡りおほく。又水さかし。ながれをこえ嶋をへだてゝ。瀨々かたにわかれたり。此道を二三里行ば四望かすかにして遠情をさへがたし。時に水風例よりもはげしくて。白砂きりのごとくにたつ。笠をかたぶけて駿河國にうつりぬ。前嶋を過るになみはたゝねども。藤