Page:Gunshoruiju18.djvu/454

提供:Wikisource
このページは校正済みです

納受して。眞實不虛の感應をたれたまへ。

 思ふ事のまゝにかなへは杉たてる神のちかひのしるしとそみん

社のうしろに小川をわたれば。佐夜中山にかかる。此山口をしばらくのぼれば。左に深谷右も深谷。一峯ながきみちはつゝみのうへに似たり。兩谷の梢を眼下に見て。群鳥の囀を足の下に聞。谷の兩片はたかく。又山のあひだをすぐれば中山とは見えたり。山はむかしの九折のみちふるきがごとし。こずゑはあらたなる抄千條のみどりみなあさし。此ところは其名ことに聞つるところなれば。一時のほどに百般立どまりてうちながめゆけば。秦蓋の雨の音はぬれずして耳をあらひ。商紘の風のひゞきは色あらずして身にしむ。

 わけ登るさよの中山なかにこえて名殘そ苦しかりける

時に胡馬ひづめつかれて。日烏翅さかりぬれば。草命をやしなはんがため。きく川の宿にとまりぬ。或家のはしらに故中御門中納言宗行卿かく書付られたり。彼南陽縣の菊水下流を汲でよはひをのべ。此東海道の菊河西涯にやどりて命を全くせん事を。ことにあはれとこそおぼゆれ。身は累葉の賢枝にうまれ。其官は黃門のたかき階にのぼる。雲のうへの月のまへには冠の光をまじへ。仙洞のはなの下には錦の袖の色をあらそふ身たり。榮分にあまりて時々はなと匂ひしかば。人それをかざしてちかきもしたがひ遠きもなびきしも。かゝるうきめ見むとは思ひやはよるべき。さてもあさましや去承久三年中旬天下風あれて海內のなみさかへりき。鬪亂の亂將は花城よりみだれ。合戰の戰士は夷國より戰。暴雷雲をひゞかして日月光をおほはれ。軍慮地をうごかして弓釼威をふるふ。其あひだ萬歲の山のこゑ。風わすれて枝をならし。ー淸の河の色波あやま