Page:Gunshoruiju18.djvu/453

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優なるかな艷なるかな。忘難く忍がたし。命あらば□年か再び來て此うらにすぎん。

 波ははま松には風のうらうへに立とまれとや吹しきるらん

林の風にをくられて廻澤のやどをすぎ。はるかに見わたして行ば。岳の邊にはもりあり。野原には澤あり。峯にたつ木は枝をうへにさして生たれども。水にうつるかげはこすゑをさかさまにして互に相違せり。水と木とは相生中よしときけども。うつるかげは向背して見ゆ。時旣にたそがれになれば。夜の宿を向へて池田の宿にとまる。

十二日。池田を立てくれ行ば。林野おなじさまなれども。ところみちとなれば見るにしたがひてめづらしく。天中川をわたれば大河にて水面三町ばかりあれば舟にて渡る。はやく波さかしくてさほもさしえねば。大なる扒をもちてよこざまに水をかきてわたる。かの王霸が忠にあらざれば滹沱河澌むすぶベきにあらず。張轉望が牛漢浪にさかのぼりけん浮木のふねのかくやとおぼえて。

 よしさらは身をうきゝにて渡りなんあまつみ空の中川の水

上の野原を一里ばかりをすぐれば。千草萬草露の色なをあさく。野煙徑風の音またよはし。あはれおなじくは。此道の秋のたびにてあれな。

 夏草はまたうらわかき色なから秋にさきたつ野邊の露かな

山口といふ今宿を過れば。路は舊に依て通ぜり。野原を跡にしさとむらをさきにして打かへ打かへ過行ば。事のまゝと申社に參詣す。本地をばしらず。佛陀にもいますらん。薩陲にもいますらん。中丹をば神かならずあはれみ給ふべし。今身もおだやかに後身もおだやかに。すぎのむら立は三輪山にあらずとも戀しく。尋てもまいらん。願はたゞ畢竟空寂の法味を