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しきに目ざめて數雙の松の下にたてり。磯もとゞろによる波は。水口かまびすしくのゝしれども。晴くもりゆく月は。雲のうす衣をかうぶりて忍びやかにすぐ。彼釣魚のかげはなみの底に入て魚のきもをこがし。夜舟の棹のうたはまくらのうへに音づれて客のねざめにともなふ。夜も旣に明ゆけば。星のひかりはかくれて宿立人の袖はみえ。餘所なる聲によばれてしらぬ友にうちつれて出づ。しばらく舊橋に立とゞまりてめづらしきわたり興ずれば。橋の下にさしのぼるうしほは。かへらぬ水をかへし上さまにながれ。松をはらふ風のあしは。かしらをこえてとがむれどもきかず。大かた羇中の贈答は此所に儲たり。誰か水驛の跡をいはん。
橋本やあらぬ渡りと聞しにも猶過かねつまつのむら立
浪まくらよろしく宿のなこりには殘してたちぬまつの浦風
十一日に橋本をたつ。橋のわたりより行々たちかへりみれば。跡にしらなみのこゑはすぐるなごりをよびかへし。路に靑松の枝はあゆむもすそを引とゞむ。北にかへりみれば湖上はるかにうかんで。なみのしは水の顏に老たり。西にのぞめば湖海ひろくはびこりて。雲のうきはし風のたくみにわたす。水鄕のけしきは。かれも是もおなじけれども。湖海の淡鹹は氣味これことなり。浥のうへには浪に翥みさごすゞしき水をあふぎ。舟の中には唐櫓おすこゑ秋のかりをながめて夏の空にゆく。本より興望は旅中にあれば。感膓しきりに廻りておもひやみがたし。此所をうちすぎて濱まつのうらにきたりぬ。長汀砂深して行はかへるがごとし。萬株しげくして風波こゑをあらそふをみれば。又湖を吞は則曲浦の曲より吐出し。濱漪珠を沙汰は則疊巖の疊に碎きしく。