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Page:Gunshoruiju18.djvu/451

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十日。豐河を立て野くれ里くれはるとすぐれば。峯野の原と云所有。日野の草の露より出て若木の枝にのぼらず。雲は峯の松風にはれて山の色天とひとつに染たり。遠望の感心情つきがたし。

 山の端は露より底にうつもれて野末の草に明るしのゝめ

やがて高志山にかゝりぬ。石利を踏て大敵山を打過れば燒野が原に草葉萠出て。こずゑの色煙をあぐ。此林地を遙に行ば山中に堺川あり。是より遠江國にうつりぬ。

 くたるさへたかしといはゝいかゝせんのほらん旅の東路の關

此山のこしを南にくだりて遙に見おろせば靑山浪々として白雲沈々たり。海上の眺望は此ところに勝れたり。漸山脚に下れば匿穴のごとくに堀入たる谷に道あり。身をそばめ聲を吞で下る。くだりはつれば北は韓康獨往の栖。花の色夏の望み貧して。南は范蠡扁舟の泊り。波の聲夕の關に樂しぶ。鹽屋にはうすきけぶり靡然となびきて。中天の雲片々たり。濱膠には决れるうしほ溳焉とたまりて數條の畝磩々たり。浪によるみるめは心なけれども黑白をわきまへ。白洲にたてる鷺は心あれども毛砂にまとへり。優興にとゞめられて暫く立れば。此浦の景趣はひそかに行人の心をまとふ。

 行過る袖も鹽屋の夕けふりたつとてあまのさひしとや見ん

夕陽の影の中に橋本の宿にとまる。此泊は鼇海南に湛て遊興をこぎゆくふねにのせ。驛路ひがしに通りて譽號を濱名の橋にきく。時に日車西に馳て牛漢漸あらはれ。月輸峯に廻りて兎景初て幽なり。浦ふく松風は臥もならはぬ旅の身にしみ。巖をあらふ浪の音は聞もなれぬ老の耳にたつ。初更の間ひごろのくるしみにわかれて。七編のこもむしろにゆるめるといへども。深漏はこよひのとまりのめづら