Page:Gunshoruiju18.djvu/449

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は必しも同じからねば。心に准する氣色は友をそむきて似たれども。折にふるゝ物のあはれは心なき身にもさすがに覺えて屈原が澤に呻ひて漁夫が嘲を耻。楊岐が路になきて騷人のうらみをいだきけんも。身のたとへにはあらねども。逆旅にして友なきあはれには。なにとなく心ぼそくそらにおもひしられて。

 露の身をおくへき山のかけやなきやすき草葉もあらし吹つゝ

湖見坂といふ所をのぼれば。吳山の長坂にあらずといへども。周行の短息はこゝにあへたり。數步を通じてながき道にすゝめば。宮道二村の山中を賖に過て。山はいづれも山なれども。優興は此山にひく。松はいづれも松なれども。木立は此松にとゞまれり。翠を含風の昔に雨をきくといへども。雲に舞鶴のこゑに晴の空を知。松の性松の性。汝は千年の貞あればおもがはりせじ。再往再往。我は一時の命なれば後見期しがたし。

 けふすきぬかへらは又よふたむらのやまぬ名殘の松の下道

山中に堺川あり。身は河上にうかんでひとり渡れども。影はみなそこに沈て我とふたりゆく。かくて三河國にいたりぬ。雉鯉鮒が馬場を過て。數里の野原に一兩のはしを名づけて八橋といふ。砂に睡る鴛鴦は夏を辭去り。水にたてる杜若は時をむかへて開たり。花はむかしの色かはらず咲ぬらむ。橋もおなじ橋なれども幾度つくりかへつらん。相如が世をうらみしは肥馬に乘て昇僊にかへり。幽子身を捨る。窮鳥に類て當橋を渡る。八橋よ八橋よ。くもでに物おもふ人は昔も過きや。橋柱よはしばしらよ。をのれも朽ぬるか。むなしく朽ぬるものは今もまたすぐ。

 すみわひて過る三河のやつ橋を心ゆきてもたちかへらはや

此はしのうへにおもふ事をちかひて打渡ら