Page:Gunshoruiju18.djvu/448

提供:Wikisource
このページは校正済みです

をたるゝ幡蓋社頭の上におほひ。金玉の檐端をうつ金色を神殿の面にみがく。彼和光同麈は來際をかざる期なき事を憐む。羊質未參の後悔に向前のうらみあり。後參の未來に向方のたのみなし。願は今日の拜參をもちて必當來の良緣とせん。路次の便詣なりといふ事なかれ。此機感相叶時也。光をまじふるは冥を導誓ひなり。明神定てその名に應じ給はゞ。長夜の明曉は神にたのみ有ものをや。

 光とつるよるのあまの戶早あけよ朝日戀しき四方の空見ん

此うらをはるかに過れば朝には入海にて魚にあらずば游べからず。晝は鹽干潟なれば馬をはやめてゆく。酉天は冥海漫々として雲水蒼々たり。中上には一葉の舟かすかに飛て白日の空にのぼる。彼侲男の船中にてなどや老にけん蓬萊の嶋は見ずとも。不死藥をばとらずとも。波のうへの遊興は一生の歡會なり。是延年の術にあらずや。

 老せしと心をつねにやるひとそ名をきくしまの藥をもうれ

猶此干潟を行ば小蟹どもをのが穴々より出て蠢きあそぶ。人馬のあしにあはてゝ橫にをどり平さまに走りて。我あなへ迯入をみれば。足の下にふまれて死べきは外なる穴へ走りて命いき。外に恐なきは足の下なる穴へ走來てふまれて死ぬ。憐べし煩惱は家の犬のみにあらず。愛着は濱の蟹ふかき事を。是を見てはかなくおもふ我々。かしこしやいなや。生死の家に着する心は。かににもまさりてはかなき物か。

 誰もいかに見るめ哀とよる波のたゝよふうらに迷ひ來に鳬

山重りて又かさなりぬ。河へだたりて又へだたりぬ。ひとり舊里を別而遙に新路におもむく。しらずいづれの日か古鄕にかへらん。影をならべゆく道づれはあまたあれども。心ざし