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さし入て河伯の民うしろにやしなはれ。見あぐれば峯崎て山祇の髮風にけづる。磐をうつ夜の浪は千光の火を出し。木々になく曉の鼯は孤枕の夢を破る。此ところにとゞまりてこゝろはひとりすめども。明行ば友にひかれ打出ぬ。
松かねのいはしく磯のなみ枕ふしなれてもや袖にかくらん
七日。市腋を立て。津嶋の渡と云所を舟にて下れば。蘆の若葉あをみわたりて。つながぬ駒も立はなれす。菱の浮葉に浪はかくれども。難面かはづはさはぐけもなし。とりこすさほの雫袖にかゝりたれば。
さして物を思ふとなしにみなれさほみ馴ぬ浪に袖は濡しつ
渡はつればおはりの國にうつりぬ。片岡には朝陽の影うちにさして。燒野の草に雉なきあがり。小篠が原に駒あれて。泥しけしき引かへて見ゆ。又園中に桑の下宅あり。宅には蓬頭なる女。簀にむかひて蠶養をいとなみ。園には僚倒たる翁鋤を持て農業をつとむ。大かた禿なる小童部といへども。田を習心ざしたゞ足をひぢがごとするおもひのみあり。わかくしてより業を習ふありさまあはれにこそ覺れ。實に父兄のをしへつゝしまざれども。主孝の志をのづからあひなるものか。
山田うつ卯月になれは夏引のいとけなき子も足ひちにけり
幽月景あらはれて。旅店に人しづまりぬれば。草のまくらをしめて萱津の宿にとまりぬ。
八日。萱津を立て鳴海の浦に來ぬ。熟田宮の御前を過れば。示現利生の垂跡にひざまづきて一心苒拜の謹啓に頭をかたぶく。暫く鳥居に向ひて阿字門を觀ずれば。權現の砌ひそかに寂光の色に□夫土木霜降て瓦上松風天に吹といへども。靈驗日新にして人中の心花春のごとくにひらけたり。しかのみならず。林の梢枝