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Page:Gunshoruiju18.djvu/445

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がごとし。卑女うちむれ前田の面にゑぐつむ。存外本ノマヽしづくに袖をぬらす。そともの小川には川ぞひ柳に風たちて鷺のみの毛うちなびき。竹の編戶の垣根には卯花咲すさびて山時鳥忍びなく。かくて三上の嶽をのぞみて野洲河をわたる。

 いかにしてすむやす川の水ならんよわたる計苦しきやある

若椙と云所を過て橫田山を通る。此山は白楡のかげにあらはれて綠林の人をしきる所ともきこゆれば。益なく覺えていそぎゆぐ。

 はや過よ人の心のよこた山みとりの林かけにかくれて

夜景に大岳といふ所にとまる。年比うちかなはぬ有さまにおもひとりて髮をそりければ。いつしかかゝるたびねするも哀にて。彼廬山の草庵の夜曲は情ある事を樂天の詩に感じ。此大岳の柴の宿の雨には何事を貧道の歌にはづ。

 墨染の衣かたしき旅ねしついつしか家を出るしるしに

五日。大岳を立て遙に行ば。內の白河外の白河といふ所を過て鈴鹿山にかゝる。山よりは伊勢の國にうつりぬ。重山雲さかし。越れば千丈の屛風彌しげく。群樹烟ながし。褰は又萬尋の帷帳ますあつし。峯には松風かたに調べて嵆康が姿しきりに舞。林には葉花稀に殘て蜀人の錦は纔にちりほふ。是のみにあらず。山姬の夏の衣は梢のみどりにそめかけ。樹神の音の響は谷の鳥にこたふ。此路を何里ともしらず越行ば。羊腸坂きびしくして駑馬石にあしなえたり。すべて此山は一山の中に數山をへだてゝ千巖の峯にさはり。一河のながれ百瀨に流て衆客の步みに足をひたせり。山里江複は當路にありといへども。萬里の行者はなかばもいたらず。

 すゝか川ふるさと遠く行水にぬれて幾せの浪をわくらん