Page:Gunshoruiju18.djvu/406

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ほどをおかしともくるしともみるに。をのづから心もなぐさめ。さりともたのもしう。さしあたりて。なげかしなどおぼゆることどもないまゝに。たゞおさなき人々をいつしか思さまにしたてゝ見んとおもふに。年月の過行を心もとなく。たのむ人だに。ひとのやうなるよろこびしてはとのみ思ひわたす心ちたのもしかし。いにしへいみじうかたらひ。よるひる歌などよみかはしゝ人のありても。いとむかしのやうにこそあらね。たえずいひわたる[がイ]越前守のよめにてくだりしが。かきたえをともせぬに。からうじてたよりたづねて。これより。

 たえさりし思ひも今はたえにけりこしの渡の雪のふかさに

といひたる返ごとに。

 白山の雪の下なるさゝれ石の中の思ひは消んものかは

やよひのつゐたち頃に。西山のおくなる所にいきたる。人目もみえずのどと霞わたりたるに。哀に心ぼそく花ばかり吹みだれたり。

 里遠みあまり奧なる山ちには花みにとても人こさりけり

世中むづかしうおぼゆるころ。うづまさにこもりたるに。宮にかたらひ聞ゆる人の御もとよりふみある。返ごと[とイナシ]聞ゆるほどに。鐘の音の聞ゆれば。

 しけかりし浮世のこともわすられす入相の鐘の心ほそさに

とかきてやりつ。うらと長閑なる宮にて。おなじ心なる人三人ばかり。物語などしてまかでて。又の日つれなるまゝに。戀しうおもひ出らるれば。ふたりの中に。

 袖ぬるゝあら磯浪としりなから共にかつきをせしそ戀しき

ときこえたれば。

 あら磯はあされと何のかひなくてうしほにぬるゝ蜑の袖哉

いま一人。

 みるめおふる浦にあらすは荒磯の浪ま數ふる蜑もあらしを