Page:Gunshoruiju18.djvu/404

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まことにふりにける事おもひやられて。むげにあれはてにけり。そのよ山のべといふ所の寺にやどりて。いとくるしけれど。經すこしよみ奉りて打やすみたる夢に。いみじくやむごとなくきよらなる女のおはするに。まいりたれば風いみじうふく。みつけてうちゑみて。なにしにおはしつるぞととひ給へば。いかでかはまいらざらんと申せば。そこはうちにこそあらんとすれ。はかせの命婦をこそよくかたはら[らはイ]めとのたまふと思ひて。うれしく賴もしくて。いよねんじたてまつりて。初瀨川などうち過て。その夜みてらにまうでつきぬ。はらへなどしてのぼる。三日さぶらひて。あかつきにまかでむとてうちねぶりたる[にイナシ]よさりみだうの方より。すはいなりよりたまはるしるしのすぎよとて。物をなげいづるやうにするに。うちおどろきたれば夢なりけり。曉よふかく出て。えとまらねば。ならざかのこなたなる家をたづねてやどりぬ。是もいみじげなるこいへなり。爰はけしきある所なめり。ゆ[めイ]いぬな。れうかいのことあらんに。あなかしこ。をびえさはがせ給な。いきもせでふさせ玉へと云をきくにも。いといみじうわびしくおそろしうて。夜をあかすほど。ちとせをすぐす心ちす。からうじて明たつほどに。こイれはぬす人の家也。あるじの女けしきあることをしてなむありけるといふ。いみじう風の吹日。宇治のわたりをするに。あじろいとちかう漕よりたり。

 音にのみきゝ渡りこし宇治川の網代の浪も今日そかそふる

二三年四五年へだてたることを。しだいもなくかきつゞくれば。やがてつゞきだちたるす行者めきたれど。さにはあらず。年月へだたれる事也。春ごろくらまにこもりたり。山ぎは霞わたりのどやかなるに。山のかたよりわづか