Page:Gunshoruiju18.djvu/402

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ての物語ともなりぬべき事やなど。はらからなる人はいひはらたてど。ちごどものおやなる人は。いかにも心にこそあらめとて。いふにしイたがひていだしたつる扶心ばへも哀なり。ともにゆく人々もいといみじく物ゆかしげなるはいとおしけれど。ものみて何にかはせん。かゝる折にまうでん心ざしを。さりともおぼしなん。かならず佛の御しるしを見んと思ひ立て。その曉京をいづるに。二條のおほぢををし[しもイ]わたりていくに。さきにみあかしもたせ。ともの人々上ゑすがたなるを。そこらさじきどもにうつるとて。いきちがふ馬も車もかち人も。あれはなぞことやすからず[あれはなぞとやすからずイ]いひおどろき。あざみわらひあざけるものどももあり。良賴の兵衞のかみと申し人の家のまへをすぐれば。それさじきへわたり給なるべし。門ひろうをしあけて。ひとたてるが。あれは物まうで人なめりな。月日しもこそ世におほかれとわらふなかに。いかなる心ある人にか。一時がめをこやしてなににかはせん。いみじくおぼしたちて。佛の御とくかならずみ給べき人にこそあめれ。よしなしかし。物見でかうこそ思ひたつべかりけれと。まめやかにいふ人ひとりぞある。みちけんぞうならぬ[さイ]きにと。夜ふかう出しかば。立をくれたる人々もまち。いとおそろしう深き霧をもすこしはるけんとて。法性寺の大門にたちとまりたるに。ゐなかよりものみにのぼるものども[のイ]。水のながるゝやうにぞみゆるや。すべて道もさりあへず。物の心しりげもなきあやしのわらはべまで。ひきよぎて行過るを。車をおどろきあざみたることかぎりなし。是等をみるに。げにいかに出たちし道なりともおぼゆれど。ひたぶるにほとけをねんじ奉りて。うぢの渡りにいきつきぬ。