コンテンツにスキップ

Page:Gunshoruiju18.djvu/401

提供:Wikisource
このページは校正済みです

すくよかに。世のつねならぬ人にて。その人はかの人はなどもたづねとはで過ぬ。いまはむかしのよしなし心もくやしかりけりとのみ思ひしりはて。おやのものへゐてまいりなどせでやみにしも。も[どイ]かしく思ひいでらるれば。今はひとへにゆたかなるいきほひになりて。ふたばの人をもおもふさまにかしづきおほしたて。わが身もみくらの山につみあまるばかりにて。後の世までの事をもおもはんと思ひはげみて。霜月の廿よ日いしやまにまいる。雪うち降つゝみちのほどさへおかしきに。あふ坂の關を見るにも。むかし越しも冬ぞかしと思ひいでらるゝに。そのほどしもいとあらうふいたり。

 あふ坂の關の山風吹聲は昔聞しにかはらさりけり

關寺のいかめしうつくられたるをみるにも。その折あらづくりの御かほばかりみられし折思出られて。年月の過にけるもいとあはれなり。打出の濱のほどなど。見しにもかはらず。暮かゝるほどにまうでつき。ゆやにおりてみだうにのぼるに人聲もせす。山風おそろしうおぼえて。おこなひさして打まどろみたる夢に。中堂より御かう給はりぬ。とくかしこへつげよといふ人あるに。うちおどろきたれば。夢なりけりと思ふに。よきことならんかしと思ひておこなひあかす。またの日もいみじく雪降あれて。宮にかたらひ聞ゆる人のぐし給へると物がたりして。心ぼそさをなぐさむ。三日さぶらひてまかでぬ。そのかへる年の十月廿五日大嘗會御禊とのゝしるに。はつせの精進はじめて。その日京を出るに。さるべき人々一代に一度の見物にて。ゐ中せかいの人だにみるものを。月日おほかり。その日しも京をふり出ていかむも扶。いとことの[ものイ]くるおしく。ながれ