Page:Gunshoruiju18.djvu/394

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ななく成たる方にあるに。かたみにとまりたるおさなき人々を左右にふせたるに。あれたる板屋のひまより月のもりきて。ちごのかほにあたりたるがいとゆゝしくおぼゆれば。袖をうちおほひて。今ひとりをもかきよせて思ふぞいみじきや。其程過てしぞくなる人のもとより。むかしの人のかならずもとめてをこせよとありしかば。もとめしに。その折はえ見いでず成にしを。いましも人のおこせたるが。あはれにかなしき事とて。かばねたづぬる宮といふ物がたりをおこせたり。まことにぞあはれなるや。かへりごとに。

 埋もれぬかはねを何に尋ねけん苔の下には身こそ成ぬれ

めのと成し人。今はなににつけてかなど。なくもと有ける所に歸りわたるに。

 故里にかく社人は歸けれあはれいか成わかれなりけん

むかしのかたみにはいかでとなん思ふなどかきて。硯の水のこほれば。みなとぢられて。とどめつといひたるに。

 かきなかす跡はつらゝに閉てけり何を忘れぬ形見とか見む

といひやりたるかへりごとに。

 なくさむるかたも渚の濱千鳥何かうき世にあともとゝめむ

此めのとはか所見て。なく歸たりし。

 のほりけむ野へは烟もなかり鳬いつこをはかと尋てかみし

是を聞て。まゝ母成し人。

 そこはかとしりてゆかねと先に立淚そ道のしるへ成ける

かばね尋ぬる宮。をこせたりし人。

 住なれぬ野へのさゝ原跡はかもなくいかに尋ね侘けん

是を見て。せうと定義朝臣はその夜おくりにいきたりしかば。

 見しまゝにもえし烟はつきにしをいかゝ尋し野へのさゝ原

雪の日を經てふるころ。よしの山にすむあま君をおもひやる。

 雪降てまれの人めも絕ぬらん吉野の山の峯のかけ道