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立いつる天の河邊のゆかしさに常はゆゝしきことも忘ぬ
その十三日の夜の月。いみじく隈なくあかきに。みな人もねたる夜中ばかりに。えんに出ゐて。あねなる人空をつく〴〵とながめて。たゞ今ゆくゑなくとびうせなばいかゞおもふべきと問に。なまおそろしとおもへるけしきを見て。こと〴〵にいひなして。わらひなどしてきけば。かたはら成所にさきおふくるまとまりて。おぎのは〳〵とよばすれどこたへざなり。よびわづらひて。笛をいとおかしくふきすましてすぎぬ也。
笛の音のたゝ秋風と聞ゆるになと荻のはのそよとこたへぬ
といひたれば。げにとて。
荻の葉のこたふる迄も吹よらてたゝに過ぬる笛の音そうき
かやうにあくるまでながめあひて。夜あけてぞみな人ねぬる。そのかへる年
にほひくる隣の風を身にしめてありし軒端の梅そ戀しき
其五月のついたちにあね成人こうみてなくなりぬ。よその事だにおさなくよりいみじくあはれと思ひわたるに。ましていはん方なくあはれかなしとおもひなげかる。はゝなどはみ