Page:Gunshoruiju18.djvu/392

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に。いみじう人なれつゝ。かたはらに打ふしたり。尋ぬる人やはと是をかくしてかふに。すべて下すのあたりにもよらず。つとまへにのみありて。ものもきたなげなるはほかざまにかほをむけてくはず。あねおとゝの中につとまとはれて。おかしがりらうたがるほどに。あねのなやむ事あるに。物さわがしくて。此ねこをきたおもてにのみあらせてよばねば。かしがましくなきのゝしれども。なをさるにてこそはとおもひてあるに。わづらふあねおどろきて。いづら。猫はこちゐてことあるをなどととへば。夢に此ねこのかたはらにきて。おのれはじじうの大納言殿の御むすめのかくなりたる也。さるべきえんのいさゝかありてこの中の君のすゞろにあはれとおもひ出たまへば。ただしばしこゝにあるを。此ごろ下すのなかにありて。いみじうわびしきことといひて。いみじうなくさまは。あてにおかしげなる人と見えて。打おどろきたれば。此ねこの聲にて有つるが。いみじく哀成なりとかたり玉ふ[以下十七文字一本ニナシ]を聞に。いみじくあはれ也。そののちは此ねこを北面にもいださずおもひかしづく。たゞひとりゐたる所に此ねこがむかひゐたれば。かいなでつゝ。侍從大納言の姬君のおはするな。大納言殿にしらせ奉らばやといひかくれば。かほをうちまもりつゝ。なかよう[ながうイ]なくも。心のおもひ[イナシ]なし。めのうちつけに。れいのねこにはあらず。きゝしりがほに。あはれや。世中に長恨歌と云文を物がたりにかきてある所あんなりと聞に。いみじくゆかしけれど。えいひよらぬに。さるべき便をたづねて。七月七日いひやる。

 契けんむかしのけふのゆかしさに天の川なみ打出つる哉

返し。